あ、ゆき。 しろいゆきが、ふってきた。 【雪】 寒ぃ、と君が言う。 そうだな、と俺が応えた。 昨日買ったばかりのマフラーを、鼻先まで引っ張ってくる。 吐き出す息が、水蒸気になってマフラーをぬらす。 コンクリートは、まるで凍ったように動かないで、俺たちの歩く道にあった。 ただただ、音のない闇。 手袋をしない君の手に、茶色いコーヒーの缶。 俺の手には、いつもの手袋。 手袋すれば?といつも聞くのに、「手袋は気持ち悪い」なんて君は言う。 それでも、ご機嫌なのか鼻歌を口ずさんでる。 夜二十時を廻ったばかりの街は意外と静かで、寮母さんの文句を聞きながら出てきて、よかったなんと思ってる。 コーヒーを口に含んで、軽くスキップして、君が動くたびに白い息が後を追ってた。 君が歌うのは、この季節特有の歌。 春がくれば、皆忘れてしまうような。 「なんの歌だっけ?それ。」 君は応えずに、にやりと意地の悪い笑みを俺に見せる。 あぁ、またからかわれてしまった。 マフラーを結びなおして、大きく息をつく。 俺の反応を楽しむように、今度は声を立てて短く笑う。それがコンクリートに響いて俺の耳まで届いた。 まるで、君の声と、息遣い以外の全てが消えてしまったかのよう。 「ミカミ。」 きちんと名前を呼んだ。 そう言えば、今日初めて口に出した言葉かもしれない。 寒くて、口を開くのも億劫だから。 冬生まれの君は(その所為かどうかは知らないけれど)上機嫌に振り返る。 「おい、みろよ。」 ぇ?と、俺は君の指差した上空を見る。 ふわふら、ぱらぱら。 降って来るのは 「あ、ゆき」 そりゃあ寒いわけだなと俺は肩をすくめて、君は頷きながら歩調を速めた。 明日の部活は、どぉなるんだろうと、下らない会話の中で、君はコーヒーを飲み干す。 FIN 日常以外の何者でもない(笑) でも、渋沢さんは寒いの苦手そうです。 ナツ生まれですから。