春が来て君は綺麗になった
去年よりずっと綺麗になった。




[なごり雪]




初めて観月に会ったのはそう言えば去年の今ごろだった。
じゃあ結局一年しか一緒にいなかったのか。
俺は自分の身体に降りかかり白いものや人気のないプラットホームを見つめながら思った。
観月と逢ったのも
そして今も
季節は春。
それなのに吐き出す息は真っ白で、温暖化はどこの話だったかと思う。
新幹線を待つキミの横顔がやっぱり綺麗。でも俺は観月よりも時計を気にしていて。
残りの時間なにを言おうか、何が言えるか考えてる俺に“東京で見れる雪は、これが最後になるんでしょうか”なんてキミが呟いた。
消えそうな声でそれでも殊勝に笑う観月は俯いていた。それを抱き締める事も出来ずに、降る雪を見る。
降り遅れてしまった雪は地面で雨になって溜まっていて、涙みたいだと思った。
山形へ向かう新幹線はまだ来てなくて。
「あと…三分。」
ウルトラマンみたいだなといったら観月は笑ってくれた。
東京で見る雪は、さいご。
もう一回今度は確かめるように観月が言った。
そんなキミになんと言っていいのか俺は言葉を見つけられなくて、一生懸命探した。国語を真面目にやればよかったと今更後悔。
「…見に、こいよ。」
迎えに行くから。
なんとか見つけ出したそんな言葉で軽く観月の頭を叩いた。
「……バカ。」

春が来て君は綺麗になった
去年よりずっと綺麗になった。

それを素直に伝えるべきかどうか悩んで、観月が乗る新幹線の音に紛れてこっそり言った。
なごり雪は頬に当たって溶けてないてるみたい、と君が言う。
「またな」
新幹線に乗り込む一瞬後姿になる観月が切なくて。
小さい背中が泣いてないのを知りたくて「泣くなよ」と笑う。
「泣いてませんよ」
子供みたいにキミは不貞腐れて、それから扉が閉まった。
あ。なんて情けない声を俺は出した。
抱き締めればよかったと、トレンディードラマを思う。
抱き締めて「行くな」と囁けばヒロインが泣きながら戻ってきてくれるのはドラマだけなんだけれど。
中学生には、出来ない話で。
やっぱり俺は観月を愛してるんだなと解り幼い自分を笑った。
愛してるなんて綺麗な言葉で笑えた。
白い頬を思い切り動き出した窓に押し付けた観月の唇が「さようなら」と動く事がひどく恐かったんだ。
だから俯いた。
もう一回顔を上げるともうキミは見えなくて、なごり雪で新幹線は少しモザイク。
次に会う頃には俺たちはきっともっと大人になって観月はもっと綺麗になって。
バカみたいにふざけて過ぎたあの夏や冬は訪れないのだろうか。
「……泣くなよ」
俺が泣いてどーするよ。
キミを惜しむ雪が溶けては落ちる。
そんな雪を、なごり雪を、みていた。

春が来て君は綺麗になった
去年よりずっと綺麗になった。去年よりずっと綺麗になった。




FIN