「いつまで、やってるんですか」
その声には、ある程度の嘲笑と少しの確信が含まれていた。

『聖母』


ナイター設備が辛うじてついているテニスコートに、一人の影。
赤澤は、自分が目立っていたんだろうなと観月の声音で悟った。
ラケットを持ったまま振り返ると、観月が仁王立ちしている。顔は怒っていない。
「おう、観月」
先生にも、ばれてるかも。
そしたらそろそろ怒鳴り声が聞こえるな、と思う。観月が最初に来てよかった。
赤澤がはラケットを握りなおしながらそう考える。
「おう、じゃないですよバカ」
「バカって……」
観月に馬鹿にされるのは慣れているので(慣れるのもどうかと思ったのだが、慣れてしまったものは仕方が無い)苦笑で答える。
すると、また観月が笑う。
「ほら、怪我して」
届かなかったボールを無理に追っかけて擦り剥いた膝小僧をさしているらしい声に
「たいしたことねぇよ」
と返した。
またコートに視線を戻すと、しつこく観月が言う。
「化膿したら大変でしょ?消毒くらいなさい。」
「は〜い。」
気の無い返事を返し、足元に転がっているボールをラケットで弾ませる。
「あと、もう少しやってくんですか?」
「程ほどにしとくよ」
彼の言葉を先回りして言った。
「そうですね、練習量が多ければいいってモンじゃない」
観月らしい物言いに思わず笑みがこぼれる。そうして、その観月らしい言葉の裏から彼の真意を読み取る。
「心配かけてる?」
驚きもせずに、観月は頷いた。すこしくらいは、驚いて欲しかったと赤澤は思う、それはエゴか。
「ん〜そうですね。一番貴方が心配です。裕太君よりもむちゃするから」
「ごめんなさ〜い」
おどけて答える。観月がじゃりっと音を立てて遠ざかるのが解った。
「さっさと帰りなさいよ。ボールは倉庫ですよ?ラケットはもう教室にもって帰らなくていいから部室に入れときなさい。体育着は洗うように」
次から次へと注文をつける観月を、赤澤は
「ははは。観月って母親みてぇ」
と比喩した。
「バカ言うな」
「んじゃ、奥さんみたい?」
「……母親でいいです。」
嫌そうに、観月が頷くのが背中越しにでもわかる。わかる、と言うよりも予想がつく。
「ははは。」
「気をつけて」
意識を、観月からボールに移しながら応える。
「ん。観月も寮までだけど気を付けろよ。最近物騒だし」
観月の背格好は、女子高生のソレに見えなくも無い。昼間なら平気だろうが。
はぁ…と短く観月がため息をつく。
「わかってますよ。では」
「じゃな。」
それだけ言うと赤澤はラケットを持っていないほうの手で軽く手を振った。




FIN
題名と内容が伴っていないSSですな。
本当は、もっとラブラブにする予定だったんですが、赤澤が練習したそうなので(笑)