なくしてしまった物があって

ソレが何かも忘れてしまって

ふと君に出会い

涙が止まらない。

 

 

 

【プレゼント】

 

 

 

 

三年ぶりだった。

三年ぶりの東京という地だった。

中学を卒業してそれっきり、高校は実家へ帰り地元の県立高校を選び、大学入学を気に東京へ来た。

逢えるかも知れない、とは思っていたけれど。

それはどちらかと言うと「当たるかも」と思って宝くじを買いに行くような物だった筈で。

逢ってしまうとは思わなかったのだ。

 

* * *

あれは雨がふりそうで、降ってはくれない東京新宿の灰色の空の下。

 

 

僕は、呑気に歩いていた。

本当は、呑気になんか歩いちゃいなかったけど。

ポケットに小銭も入れないでこの街を歩くのは、あまりにも意味が無くて

人々の流れが、水道水なんかよりもよっぽど荒んだ中に僕はいて

東京なんて所は、そんなくだらなさが溢れている所だと僕は思っていた。

だから好きだった。

生まれてしまったあの土地は善と悪とが理(ことわり)をなしていて、他の者は排他する。

生産的なピンクの看板や、無駄に大きな音楽を流すスピーカーも無く、時だけが流れる場所に生まれた。

そこには。

無くしてしまった物も落ちていなくて。

僕はただ生まれてきた場所に、のうのうと生きていた。

それは、今も大して変わりはしないのだけれど、東京(ココ)には何もない物があったから。

人並みに流されないように、汚物で汚れてしまった煉瓦を模した道を踏みしめて思う。

母親も

姉も

父親も。

とおい昔のように感じる想い出は、微かに残ってはいたけれど。

自分の居場所、なんてたいそうなモノはどこにも無くて、やはりこんな所を歩いている自分にしかなくて。

なんとなく、懐かしい姿を思い浮かべてみたりする。

(あいたいな)

連絡先は知っていたくせに、わざと教えなかった色黒のバカ。

(あいたいな)

あいたいな、とふと思えた、ただ一人。

風が、少しだけ流れを変えた。

 

「観月?」

 

自分の名前だ、ととっさに思ってふり返る。

ソコには草臥れたスーツのサラリーマンや、髪の色の不自然な少年達がわらわらといて、見知った顔はいない。

みづき、という響きは下の名前にもある、自分ではなかったのかも知れないと思い元の位置に顔を置く。

「観月!観月はじめだろ?」

「・・・・・・へ?」

思わず、変な声を出してしまった。

それはフルネームを雑踏の中で叫ばれたからではなく

その雑踏の中からひょっこり現れた記憶と違わぬ顔に、だ。

よくみたら、記憶よりもオヤジになっていたのだが。(当たり前といえば当たり前だが、実はびっくりした)

 

「おれだよ、赤澤。」

 

少し、メラニン色素の多すぎた褐色の肌に、艶の無い黒い髪、それから右の端を上げて笑う癖はそのまんま。

人の波が、立ち止まる僕らに迷惑そうに当たってゆく。

それですら、どうでもよく思えた。

宝くじは当たってしまったらしい。

「・・・・あなた、変わってない。」

「第一声がそれかよっ」

やけに嬉しそうに笑って僕の頭を無遠慮に叩く姿は、やはり彼で。

違うといえば頷いてしまうのだが、それでも変わらぬ声だったと思う。

僕はよく、バカっぽいから止めてくださいと称した笑い方とかもそのままで。

少しだけ、嬉しくなった。

ごみダメのようなセンター街から抜けて、そのへんの店に入る。コーヒーを頼んだら飲めるようになったんだ、と笑われてむかついた。

砂糖とミルクを入れたら、もっと笑われたから奢らせることを勝手に決めてやった。

「つーかさ〜お前せめて髪形くらい変えろよ。卒業アルバムから出てきたこと思ったぜ」

赤澤だって、髪型は変わっていなかった。ただ結んでいたから、イメージが違った。

店でさえも人の多い東京で、よく会えたものだと思う。

有線放送からは、聞き覚えるある歌声が流れてきたが、コーヒーの香りと赤澤の笑い声で消されてしまう。

見る見る間に、三年前に引き戻される感覚が足の裏からした。

「いつからコッチにいんの?高校って田舎だったんだろ?」

「最近ですよ、大学が青山の方だから。」

「ふ〜ん。お前勉強すきだよなぁ・・・。」

『貴方は、予習復習をしなさすぎです』と三年前は口癖のように出ていた台詞は、すぐにはいえなかった。それはひどくモドカシイ現実。

着ている服は、想い出のあの頃と路線は変わっていなかった。

装飾品をやたらにつけているヤツ。僕の中ではそんなイメージ。

身長は少し伸びていて話し方もおとなしくなった。きっと、部室で調子の乗って全裸に成ったりとかはもうしないんだろうと思う。

あぁ、部室とかなんてもうないか。

赤澤が一人でしゃべるのをBGMに聞いて、ちょっとだけ「あいたかったです」なんて言葉が落ちてしまいそうで思わず俯いた。

コーヒーを一気に飲み干すと少し苦くて、顔をしかめる。

「観月。」

彼が僕の名を呼んだ。

三年前と変わらずに、でもそれは三年前と同じ居場所ではなかったが。

泣きそうな空はとうとう泣き出して、店の中の客は少しざわついた、僕も傘を持っていない。

 

「また会えてよかったな。」

 

何も無い下らない世界で、このコンクリートで貴方を見つけました。

 

 

 

===FIN===