君に愛してるよとと伝えたこともなく。







[正しい甘え方]






熱を出した。

「38度5分。寝てろっ」
「わかってますよ・・・。」

心配性の赤澤は焦っていて、僕の頭の上に置かれたタオルはいつも少し濡らし過ぎだった。
昨日の夜くらいから「あ、熱あるかも」と思っていたが(さっき教えたら「じゃあそん時に言え」と叱られた。)
目がさめたら案の定起き上がれなくなってしまったのだ。
節々が痛む身体は夢見心地で赤澤の輪郭が微妙に歪む。

「辛かったら電話しろよ?ガッコさぼるから」
「風紀委員の僕にそんな事いわないで下さい・・・。」

携帯電話をちらつかせ赤澤はそんなことをいいならが学校へいった。
彼が空間から消えた途端に背筋にいやな悪寒が走る。
熱が上がっているんだとなんとなく感覚でわかった。
時計の針が動く音が妙に耳に響いて、ソレですら鈍い痛みに変わる。
何か食べなければ、薬すら飲めないとゆっくりベットから這い出て、僕はこの前買った冷蔵庫の前に行く。

「・・・・なにか、」

何かないかな、と思うのにやはり何もないのは変わらなくて。
奇妙な機械音が部屋中に響いて、冷気と共に風ともいえない空気が頬をさらう。

「も、いい。」

薬のそのまま飲むと吐くの簡単に予想できたので寝てしまうことにした。
赤澤もいないし。文句を言う人間もいない。
熱のお陰でくだらないことを考える脳みそはとっとと眠らせてしまおう。



ひんやりとしたのは彼の手だと、何故簡単に思ってしまったのか。
今にして考えれば人生の汚点だ。

「あか・・・・ざわ?」

頑張ってまぶたを開けたのに、僕の眼球に映ったのはくすくす笑う親友の姿。

「ぶー。俺でした。」
「木更津っ・・・・」
「赤澤じゃなくてごめんねぇ〜♪」

ここぞとばかりに嬉しそうな木更津に、僕は何も出来ないまま布団に潜った。
ごめんごめん、と木更津が謝るのが聞こえたがどうでもよかった。
期待した僕がバカだった。
・・・・・あぁどうやら僕は期待していたらしい。

「観月、赤澤委員会で遅くなるからって。」

伝えたよ俺は。
布団の所為で曇っていたけれど聞こえた木更津の声は、子供みたいに不貞腐れた僕を呆れていて。
けれど、まだ子供な僕は拗ねるしか能が無くて布団にもぐりこんだままだ。
眠った所為だろうか多少は気分がよくなった頭を丸める。
おそらく熱は37.6くらいだ。
そして熱っぽい世界を視界に入れてぼんやり考える。別に何を、というわけでもないけど。

「あ・・・。」

そういえば。
赤澤がベットの横にスナック菓子を隠していたのを思い出した。
たしか、僕は止めてくださいといったのに無視したやつがあったはずだ。
薬を飲むためにスナック菓子を食べるのはどうかと少し思うが薬を飲んだ方がいいんだろうから、仕方が無い。
僕は自己正当化をした。
赤澤のベットは、僕の上だったので未だに痛みが残る体を引きずってはしごに足をかけることにした。

「んで、お姫さまはなんつー事してんの・・・・。」

赤澤の声だ。

「・・・・何か、食べようと思って。」

沈黙。
その後、例のバカは思いっきり笑い出した。
病人に対して失礼だと思う。熱が下がってから殴ろうと僕は思った。

「ほら、シスターにお粥作ってもらったから、コレ喰えよ。」
「・・・ん。」

赤澤は無駄に大きい手の平で僕をはしごから引き剥がす。
でもまだ笑いをかみ殺しきれていなかったので僕のそのまま暴れた。
なんだか、蛙をつぶしたような声(といっても蛙は潰した事が無い、潰したくも無い。)がしたからもしかしたら腹にでも入ったかもしれない。

「・・おまえ、風邪ひいてるくせに機嫌悪くない?」
「べつに。」
「いや、絶対悪いって。」

ホラ、あ〜ん、とかバカみたいに赤澤がやるから恥ずかしくなってまた殴った。
お粥は結構美味しくて、胃に食料が入ってからまた眠くなる。
それはまぁ、仕方が無い。

「赤澤。」
「ん〜?」

ベットに押し込まれて早く寝ろ、と言われた。
名前を呼んで服の端を引っ張る。

「薬、飲ませて。」
「・・・・・仰せのままにっ」

ワガママを聞くのはいい加減に慣れたのか、赤澤は僕の薬を持ってきた。
薬の在り処は教えていないはずなのに覚えているところを見ると自分の仲でのバカレベルが少しだけ低下した。まぁ本人は気づかないだろうけど。
錠剤を、二つ部取り出す。
銀紙とプラスチックがベリっと音を立てた。

「・・・口移しがいい。」
「・・・・・・・・・・・・・・こんにゃろ。」

ワガママも、たまには聞いてくれるんだ、と思った。
そうしたらソレは口にも出ていて。

「たまに、じゃねぇだろぉが・・・・」

と怒られた。
僕は自覚が無いのでその事は意識の端に寄せて赤澤の唇を待つ。
冷たいだろうと予想したソレは思いのほか暖かくて変な感じ。
唇は自分よりは水分を含んでいて、それから冷たい水分と硬い錠剤が流し込まれる。

「・・・ンっ。」
「これでい?」
「んふ、上出来です。」

後日、赤澤に風邪が移ったのは言うまでも無く、それから木更津にも移ったらしいのは僕のはどうでもいい話だった。