もう一回、もう一回、貴方を愛すことが出来たなら
もう一回、もう一回、忘れないように抱きしめたい。
one more
きみがすきだといった曲を手にとり
唄うように思い出す
あまい声 しろい肌 いたい夢
なんで あの時ゴメンと 抱きしめなかったのかな
きみがすきだといった曲を手にとり
ウソみたいに込みあげる
あいしてる あいしてる あいしてる
いつまでも あの時は 愛してた。
オレンジ色をしだした太陽が夜をにおわせながら空に溶けてゆく。
特に代わり映えのしない、平凡な日常の帰り道。
「・・・ ・・・ ・・・あ。」
大学からの道で赤澤は思わずそう声に出してしまい、それからしまった、と思う。
友人に頼まれていたビデオの予約。
その代償は次回の前回サボった講義のレポート代理だ。
普段はいくことのない方向にあるビデオ屋で、すっかり忘れてしまっていた。
「しゃあねぇか・・・。」
自分に言い聞かせるように(それ以外に理由はないのだが)夕日に背を向け、もう暗くなってしまった道へ小走りを始める。
* * * *
「いらっしゃいませぇ」
妙に尻あがりで事務的な店員の挨拶。
格別に思うところも泣く、赤澤は足を赤く店名の印刷されたマットに踏み出す。
ビデオ販売店は大概の場合、CD販売と一緒になっているもので、この店も例外に漏れなかった。それは落胆すべきなのかは定かではない。
「・・・んで、そのビデオはどこよ。」
おおよそ、見当はつくのだが中々たどり着けない。
それは多少、無駄に広い店内の内装と大げさでなく方向音痴な赤澤のクロスカウンターの所為であったのだが。
(そういえば)
そう言えば、などという曖昧な記憶ではないのだが、言葉にするなれば、そう言えば。
『本当に、馬鹿が付くほど方向音痴ですね』
よく、彼がそう言って笑っていたかもしれない。
―かもしれない、ではなく。していた、確実に。―
人を馬鹿にするように、それとなく少しだけ、柔らかい笑みを浮かべ、彼はよくそう言ったのだ。
一年・・・正確には十一ヶ月と二十四日前。
案外あっさりしたケンカ別れで、昔に描いていた涙も永遠も存在しなかった。
そのときは、店内の有線放送に流れているこの曲も出来てすらいなかった。
甘い、切なく去ってゆく恋人に贈る歌。何時の時代でも廃れることなく語り継がれるその説話。
その曲を鼻歌交じりに、赤澤はなんともなしにCDの棚に目をやる。
ビデオは店員に聞けばいい。
見知っているアーティスト達の活字を脳みそが理解し、それから溜息が出た。
『この唄、好きですよ。誰が歌ってるのか知らないんですが』
いわゆる流行の曲は苦手な観月が、好きだと行った唯一の局を手に取る。もしかしたら、他に好きな曲が合ったかも知れないが、赤澤には解らない。
本当のことを言えば、好き。だとさらりと口に出させた、たかがCDに少しだけ嫉妬を感じたりもしたのだが。
それも過去の話。
くだらない、と笑いたくなった。過去だと決め付ける固定観念が情けない事この上ない。
忘れないでいるのは、思い出すほど時が経ってないからなのか。
それとも?
もう一度、もう一度、あなたに触れることが出来たなら
もう一度、もう一度、先が見えないように愛したい。
それほどメジャーでもないようだったが、なんとなくは知られている程度のCDを何をしたいのか、赤澤は棚に戻した。
強くも、なんともなかったのだ彼はきっと。
それで、赤澤が思うほど、弱くもなかったから。
思い出す、というよりも感覚がよみがえるといった風に(ひょっとしたら世間ではそれを思い出す、と言うのかもしれないが、違うのだ)目を閉じた。
赤澤が優しくキスすると、迷惑そうに眉をしかめる姿。
揺れる髪。
光のように白い肌。釣り上がった目。
全てだった。
「・・・・・はぁ。」
溜息と共にぐるぐる空回りしそうな思考を吐き出す。
まぶしいくらいの電灯が赤澤を照らした。
人工の明かりの中をゆっくりと歩き、レジへ向おうとする。流石に、今度は迷わなかった。
そう、今度は迷わないのに。
揺れる髪。
光のように白い肌。釣り上がった目。
甘い香りは知らないが、見覚えの有り過ぎる姿が横切る。
追いかけてしまおうかとも思い、赤澤はやはりやめた。
理屈で考えれば、そんな事はないのだ。
そんなわけはないのだけれどやはり。 彼だ、と。観月だと思ってしまう自分に吐き気がした。
立ち尽くし、ありがちな三流ドラマのシーンのように身体を動かせずに、そんなことを思う。
もう一度、もう一度、貴方を愛すことが出来るなら
もう一回、もう一回、君に愛を唱えよう。
「・・・・みづき。」
きみがすきだといった曲を手にとり
唄うように思い出す
あまい声 しろい肌 いたい夢
なんで あの時ゴメンと 抱きしめなかったのかな
もう一回、もう一回、貴方を愛すことが出来たなら
もう一回、もう一回、忘れないように抱きしめたい。
きみがすきだといった曲を手にとり
ウソみたいに込みあげる
あいしてる あいしてる あいしてる
いつまでも あの時は 愛してた。
もう一度、もう一度、あなたに触れることが出来たなら
もう一度、もう一度、先が見えないように愛したい。
もう一度、もう一度、貴方を愛すことが出来るなら
もう一回、もう一回、君に愛を唱えよう。
きみがすきだといった曲を手にとり
その歌を歌おう。
FIN