観月を好きだと思う。
理由は解らない。


赤澤を好きだと思う。
理由は知りたくない。



「During a complaint -  whisper」



風は時たま舞い、優しく止む。
そのたびに二人の髪は、違った嬲られ方をする。
柔らかく、観月の髪は舞う。ゆっくりと確かめるように。
鋭く、赤澤の髪も舞う。何かに急かされるように。
寮のロビーに備え付けられているベランダは、今のところ二人の貸しきり状態だ。
赤澤の口からは、灰色とも白とも言いがたい煙が、流れるように浮かんでいる。

「タバコ。」

温度を持たない窓枠は夜には冷たく、観月はソレに寄りかかりながら、言う。
不必要な言葉を殺ぎ落とし、殆ど本能に近い位置で会話をする。そうしたほうが遣り易く、ひどく痛い。

「いいじゃん。」

法律を何だと思ってるんだ、と愚痴ると軽くかわされて、観月は、それ以上に怒鳴る気にもなれず溜息で返す。
何も言わずとも解るようで、言いたくないから黙っているようで。どちらとも取れる沈黙は、十分ほど続いた。
終わりを告げたのは、赤澤。

「さみぃ・・・」

「ランニングなんか着てるから。」

自業自得です。と言ったのに観月が止めてくれなかったならだ、と我侭をこねる赤澤にやはり溜息を返すと、うっわすっげ馬鹿にされたと一人ごちる。
息が白くなるほどではないが、それなりに寒い東京の秋は、ランニングシャツでは乗り越えられそうに無かった。
子供は風の子でも、中学生は暖房の子だ。
ベランダからロビーに戻ると、風がない分少しは暖かく、赤澤は子供のように喜ぶ。中学生は未だ子供か。
赤澤君は元気だねぇ、おばちゃんは綺麗だよ、なまったくこの子は口が上手いんだから、親父に似たんだって、ぉやじゃあロクな旦那にならないよ、ひっでぇ。
受付の初老に掛かった女性は赤澤に話し掛け、観月はその会話を意識の端で聞きつつも部屋に戻った。
どうせ、またなくても赤澤もこの部屋にくる、それは予感でも確信でもない。
もっとより必然に近いもの。

「観月、ココアのみたい。」

「わがまま。」

赤澤は名前を呼ぶ。

「観月。」

確認するように何度も、絶対に。間違えることも無く、ひたすら。

「こんどデートしようか。」

コツン、と骨ばった赤澤の拳が観月の前髪をつぶして額にぶつかる。
ぬくもりが伝わるようで温度も無い拳はそのまま名残も残さずに離れた。
観月は回転椅子をくるりと片足で回してプリントとルーズリーフで溢れそうな机と向き合う。
身の回りの生理整頓はいつも通信簿で頑張りましょうだった。それは関係ないが。

「貴方とイク暇ないですよ。」

観月は名前を呼ばない。

「部長。」

掲げるかのように幾度も、殆ど。縋るようでもある、それは。

「青学に勝ってからにして下さい。」

「はいはい。」

やる気の無い赤澤に渇を入れようとすら思わずに観月は溜息を零す。
本番にならないと本気が出ないタイプなのは調べてあるので、その点は仕方ない。
だってさぁ担任が髪切れってうっさくて、だって貴方なの髪は怒られるでしょう、本人の自由ジャン、でも論点ずれてません?えそうだって?OKOK、なにがOKなんですか・・・。
赤澤はベットにもぐりこんでもう寝る体制を整えた。
観月はというとまだ起きているのか机に向かっている。
集中しているわけではないらしい。
何も無い自分の机を赤澤は見た後で観月の机を覗く。
さすがB型。予想を裏切らないよな、といえば血液型で人を見るなといわれてしまいそうだったので赤澤は口を閉じる。
なんと言うかガサツな感じだ。
それは観月の神秘さと反比例をしていて楽しかった。

「観月。」

「なんです。」

いつものように観月は明後日の練習メニューを作る。視線をわざわざ向けないまま声だけで返答した。
瞳をあわせるのが億劫なほど知ってしまった相手に観月はキスをされた。
拒むわけではなかったから、瞳を閉じた。
同時に溜息が漏れる。
ランニングシャツを来た少年は自分を抱きしめて青学に勝ったらデートな、嬉々と喋った。
観月は笑うでもなく同然、勝つんでしょう?と聞くまでもなかった。
小さくは無いけれど細い背中に何故か抱きつきたくなってしまい赤澤は正直に口に出した。
そうしたらやはり笑われた。

「大バカ。」

「俺観月の事好きだもん。」

「嫌いですよ、貴方なんか。」

綺麗に綺麗に笑う観月に、赤澤はもう白旗を上げ寝ることにした。
早めに寝ろよ、と声をかける赤澤にわかってますよ、と言ってから全然寝る気の無い自分にまた笑ってしまう。
愚痴を言うようで少し気が進まないが、まったく下らない事は言わないで欲しい。
此処でいう下らない事とは先刻の「好き」だとかそんな言葉なのだけれど。
溜息を深くついて、観月は唇を開いた。

「嫌いですよ、貴方なんか。」




END