すべてのことが、シナリオ通りに進めばいいって物でもないらしい。
観月はじめ、十五歳。男(強調)


小さな恋のメロディ


叶わない恋に身を任せるのはドラマなんかよりも滑稽で、漫画よりも淡白だ。
照り付けるのは八月の太陽。
吹き抜けるのは真夏の風。
夏は・・・好きではない。
テニスでもしていれば、少しは心も落ち着くのだが三年はもう引退した。
本来ならば、この時期は全国大会に向けて猛練習のはずだった。
最低でも関東大会出場。

「できるか、んなもんっ」

「お、何観月ちゃんご機嫌ナナメ?」
クラスメイトの一人が冷やかす。
今は数学の進学補習中。一人が冷やかし始めるとソコから伝染する。
「せーり?」
「つわりじゃん?」
「うっわ〜誰だよ旦那。」
もう、否定する気も失せ、観月は溜息をつく。
窓から見えるテニスコートには懐かしい後輩と、只でさえ色黒なのに夏になってますます日焼けしたダレカの姿。
ずいぶん・・・・逢っていない。
彼をすきだと思ったのはいつ頃だっただろうか。
多分、そんなに昔じゃないはず。
コートから、黒板に視線を変えようとした瞬間そのダレカが振り返り、自分の姿を確認したようだった。
それだけで終わらせてくれれば良かったのに。
「み〜づきぃいvvv」
大声で叫ばれて無視すべきが少し悩んだ。
観月ちゃん、よんでるぜ。とクラスメイトが声をかけたが、もうどうしようもなかった。
「・・・・・ばぁか。」
とりあえずそれだけ言うと赤澤は満足なのか後輩の指導に熱中し始めた。
数学の教師が連立方程式がどうのこうので、関数がどうとか、こうとかしゃべっているが観月の頭には入っていなかった。
そんな事、とっくに小学校のときにやった。
でも、こんな事はちっとも教わらなかった。
観月、と呼んだ赤澤の顔が視力の所為だけじゃなくてしっかり見えたのは、惚れた弱み。
なんでもない行動に一々視線が釘刺しになるのもそういう事。
シャープペンシルの芯を意味もないのに折り、プリントの端に馬鹿、と書いてみる。
男同士じゃなければ良かったのに、とは思わない。
そしたらきっと出会いさえなかったんだから。
赤澤に彼女がいなかったら、とも思わない。
一回だけ逢ったが結構可愛いイイコだったから。
本当に、赤澤を自分だけのものにしたいんだったらきっと、出来ると思う。
この暑さと、ごまかしの効かない憂鬱さの所為にして。
あの馬鹿な男を手に入れる事だって出来るのかもしれない。
三十度をゆうに超える都心部の気温は、観月にそんなことを考えさせた。
あの時、試合に勝っていればもっと近くに入れたのに。
部長とマネージャー。
それだけ、それだけで。もっと近くにいれたのに。
「・・・終わったことは、どうでもいい、か。」
誰にも聞こえない声で呟く。
きっとこのまま、この夏も、想いも終わってゆくのだろうから。
若気の至りという事で同窓会のネタにもなるだろう、と観月は嘲笑した。
あとは、彼の記憶のうちから自分が消えないようにうっすらと祈るだけ。
あの、長い髪をした少女が自分の想いに気づいていなかったことも願うだけ。
小さな恋のメロディが鳴り終わるのを、ただただ待つだけ。



END