「君に好きだといったのはこんなに天気がいいから。」


立ち入り禁止の屋上のトビラはギリギリと音を立てながらもなんとか開く。
だれが開けたのか解らないけれど、開きっぱなしの鉄の門に外界と自分を隔ててもらう。
空に近づけば近づくほど、風は強くなる。太陽は厳しくなる。
真理だな。
三上はよくわからなかったがそう思った。何が真理で、どうしてそう思ったのかすら解らなかったが。
誰かに救われるという事は、ない気がした。
渋沢がいくら説いたとしても、それは無いんだと三上には言い張れた。
錆付いた鉄の格子に手をかける。これを超えてしまえば、彼は泣くんだろう。
あまりにも安易な、けれども渋沢克朗という存在の考えるとそれ以外には考えられない想像。
抜けるようなあおいそらが三上を包み込むように拡がっていた。嫌味にも似た壮大さは逆に三上は現実から引き剥がす。
立ち入り禁止。
誰も、入ってこないで。
ずるずると重力に任せて身体を落とした。コンクリートが砕けてる。
救いなんて。
望んでいるようで結局、遠ざけてばかりいるんだ。自覚するとどうしようもないのかもしれないと三上は思う。
コツンと後頭部を格子に押し付けるとちょうど空を仰ぎ見る形になる。雲がゆっくりと流れた。
瞳を閉じると風がリアルに頬を叩いく。その感じが嫌ですぐに目を開いた。途端に拡がる青は、目を閉じる前よりも毒々しく思える。
空は全てを包み込むように広かったが、三上を受け入れる余裕などないようにも見えた。
渋沢の瞳に似ている。
これも深い理由が解らなくて三上はため息をつく。
完璧に隔離された屋上はほどよい孤独感に酔う事が出来て三上は好きだった。
それでも。
「三上、いるんだろ。」
望んでいるんだと、扉の向こうの声にそう思う。いるんだろなんて居なかったら恥ずかしい台詞だ。
黙って鉄のドアを睨んでいる。
「まってるから。」
ぽつり。それだけ渋沢は言った。扉を開けもせずに、三上がそこに居る事を疑いもせずに。
「まってるから。」
外界から隔てられた途方も無い空間に渋沢の声と風の音だけが聞こえる。
遠ざかっている足音に、縋りたいのか触れたくも無いのか解らずに三上はただ空を見上げていた。
ただ、風を聞いていた。



FIN
屋上。拗ねてる三上。