倉庫
ひっそりと。
膝を抱えて待っていた。
「ひとりにしてくれ」っていったくせに
迎えに来てほしいって、待っていた。
暗くてまるで牢屋みたいなこの中で、お前の手を待っていた。
気にするな、って言って気付いて欲しくて
泣いているんじゃないかって心配して欲しくて
息を大きく吸い込んだ。
砂埃と汗の匂いが混じった空気。
こんな所で涙を流しても、気付いてくれなきゃ意味がない。
母親の姿を求めて泣く子供と一緒だ。
自分の感情の流れでなくてただ注意を引きたいだけ。
ひっそりと。
喧騒は鉄の壁を隔てた向こうにある。
来て欲しい姿もその向こうに。
きっと俺の事を気にしてるんだと、勝手に想像して心臓の奥に圧力が掛かる。
それは期待であり、呵責で寂しさ。
何もかも捨ててやってきてくれればいいのに。
そんな事が出来ないのは彼の性格であり役職でもあり…俺自身の価値を過大評価しているからでもある。
恐怖?失望?
何かを捨ててまでやってきてくれれば良いのに。
日が沈んでいく、音を立てずに。
「……渋沢」
よんでみる。
声は響きもしないで、口の直ぐそばで消えた。
ひっそりとではなくはっきりと
声は直ぐに消えた。
それは、或いは救いを求める声だったのかもしれない。
FIN