[神様堕落してしまいそうです。]
時計の針の音が、世界の全てが満たされてしまうそんな空間だった。
狭い狭い寮の部屋に、時計の音と吐息だけが聞こえるから。
三上は、軽く度の入った眼鏡を掛けたまま回転椅子を回す。
パソコンをする時に眼鏡を掛けるのは、1.0を切ってしまった視力を補うためでもあるが、格好がいいからというのが一番理由だ。
形から入るのは、悪いことではないとは彼の所属する部活のコーチの言葉で三上はそれを嘘ではないと思っている。
それだけではないのだが。
視線を感じて、振り返った。
渋沢の茶色い瞳とかち合った。何、と目だけで聞く。
母親が子供を抱くようにそっと、腕を伸ばして渋沢が笑う。その腕が何を示すのか解らず三上は黙った。
「おいで。」
「やだ。」
渋沢の行為をそう言って拒絶する。そしてまたモニターと見つめ合う。
カチリという時計の音は時間の経過を司る調べ。
視線が、痛い。じわじわと心を侵食する気さえも感じる。
気のせいなんだろうけど。
三上は、軽いため息をついてやりすごす。いつだって渋沢の行動は三上にとって居心地の悪い物だった。
全ての神経系がいかれる。壊れていく。
それが、ひどい嫌悪感と全身が蕩けてしまうような陶酔感。
「三上。」
低い、声。
渋沢の声だ。当たり前のことを三上は確認した。
黒い縁の眼鏡を指に掛けて取る。髪の毛が少し引っ掛かり一本抜けた。
「好きだよ。」
「知ってる。」
ふっと、渋沢が笑った。三上は憮然と答えると、黙ったままで渋沢を待った。
何を待っていたのか三上にはわからなかったが、渋沢はゆっくりと立ち上がり微笑んだ。
重なる唇に、なんだか理不尽だと三上は思った。
弱い電流が背筋を通じて、三上を堕としてゆく。
神様、もう僕は。
堕落してしまいます。
FIN
ちょっぴり渋沢が怖い気もしますが、こんな渋沢が大好きです。
というか、愛する渋沢に冷たい三上が大好きです。
そこに愛はあるのかい?(古い)
あ、題名は銀色夏生さんの詩からです。