あんなに一緒だったのに

先に行くなんて
なんて傲慢さ。


ため息をつくまでも無く呆れた。
約束を違える部下は最悪だが、約束を違える親友はもっと最悪だ。
ロイの部屋に写真は無かった。
田舎の両親の写真と仕事に関するいくつかの写真は部屋に埋もれているが彼が写っているものは、ない。
全て彼が……マース・ヒューズが持っていったのだ。
それなのにその彼はいない。
と、なると。

「そのうち、顔も忘れるぞ。」

それこそ笑い話ではないか。
「忘れるな」と彼は言ったわけではなかった。
だから別に忘れたとしても文句は言われまい。そうロイは考える。
声も姿もなにもかもさっさと土の中に入ってしまった薄情モノの友人に毒づく。

「俺が結婚する時に渡すとか…渋るからだ。」

写真を、せめて半分くらい手元に渡せとロイが詰め寄った時彼はそう笑いながら返した。
渡される前に、彼は行ってしまった。

「ああ…でも俺は生きているぞヒューズ。」

でもどうしてもロイは生きていた。
不思議と彼の後を追う事は考えられなかった。…人体練成については否定はしないのだが。
彼がいなくても生きている自分が、
彼がいなくとも笑える自分が
とても卑しく、しかし真実のように思えた。
「俺がいなくなったら、どうする?」なんて、随分と前に二人がまだ声変わりをしたばかりの頃にしゃがれた声で彼は聞いた。
自分は何と応えたのか。
ロイは思い出せなかった。そんな事は、どうだっていいんだ。

「俺は生きてるよ。」

あんなに共に歩もうと語り合った片翼をもがれてもロイは生きていた。
彼のいない世界は、色を失ったりはせずに昨日とも明日とも変わらずに其処にあった。
口の端を上げてロイは首を仰け反らせた。
空は夕暮れ色。
茜が青を支配していてなんと美しい、ともう一度今度は心から唇で弧を描いた。
彼はこの美しさを知らない。夕暮れすらもう共有できない世界。

「先に行ったりするからだ。」

少し拗ねた声音がとどけばいい。とロイは思った。