oh! 恋は風船爆弾 【風船爆弾】 誰にも止められやしない。私にだって止められない。 だからせめて貴方の胸の奥にあたってはじけて? 先日赴任したばかりの執務室で、せっせとペンを動かす男を見下ろす。期限が迫った書類彼に机の上に留まらず私の手の中にも幾つかある。 ギリギリで焦るんだから最初からやればいいのに。ため息をつきながらそう思う。 「大佐。」 時間配分が下手な上官の階級を呼ぶと体が一瞬跳ねる。 黒い髪が揺れて項が覗いた。普段見えている肌よくも少しだけ白い。男の人が女性の項が好きな理由が少しだけ解った気がする。扇情的なのに果てしなくストイック。 射的練習の音がかすかに聞こえた。肩越しに彼が振り返る。 「……なんだい?」 彼の漆黒の瞳に書類を抱えた私が映った。鏡で見るのと大差ない筈の虚像はそれよりも美しく見えて彼の瞳の効果に眩暈がする。 仕事を急かすための言葉が私の口からこぼれると思ったらしい彼の脅えた反応に「急いでくださいね」とお望みどおりの小言を伝えた。 はい、と小さく答える声がして彼はさっさと私から視線を離す。また、カリカリとペンが走る音。 ああ貴方はきっと気付いていない。この心の奥にある今にもはじけそうな思いを。風船の爆弾みたい。 職務中なのに、と思う。思ったところで誰にも止められない。私には止められない衝動が内臓辺りで渦を巻く。 これだから田舎の親に「突拍子の無いことばっかりいってないで結婚なさい」なんていわれてしまうんだわ。大きなお世話、今はこの人のお守りだけで充分。 気付いてくれないかしら、有能な部下が貴方の脇で何を考えているのか。 「……中尉、視線が痛い。」 「あら」 そうですか?と尋ねる。見つめていたことは認めるけれど、睨んでいたつもりはないのに。ロマンチックの欠片もないわ。 腕の中の書類がとっても邪魔。本当は今すぐにでも貴方に届けたいのに。この爆弾。貴方の焔で火をつけたら爆発しそう。 「マスタング大佐」 名前を、ゆっくりと呼ぶ。唇で、確かめる貴方の名前を。 「…なんだい?」 彼が、振り返る。私のためにペンを止めて、普段の私だったら仕事の妨げになることは避けたいんだけど。そうも言ってられない位に爆発しそう私の心が。 「バァーン」 両手を広げて、上に掲げる。天を仰ぐように。 白い四角い紙たちが明るい部屋に少しずつ影ができて、又消えていく。茶色の床はいつの間にか白く彩られている。 きょとんと、した顔で彼は一部始終をみつめている。何が起きたのかわからないのかしら。 「お気に召しましたか」 そう訪ねる私の顔は多分もう部下の顔で、それが余計に彼を混乱させたらしい。 書類を再び纏めなおして、定位置に立つ頃には彼も普段と同じ飄々とした顔で 「そうだね。」 なんて笑っているの。私が投げたあの無機物たちに火をつけてくれたら、この爆弾は弾け飛んでくれたのに。 彼が面倒くさそうに書き上げる書類を摘み上げて私は軽くため息をついた。 oh! 恋は風船爆弾。今にもはじけそうな。 FIn またしてもロイ←リザ。私がロイさん好きなのがバレバレ。いつか逆も書いてやる。 リザさん本編で親ネタとか過去ネタとかやったらこのSS笑えますね(笑) 題名は大好きなブルーハーツから。ブルーハーツとドリカムだすきってよくわからない音楽の趣味してるよね私。