バタークリームみたい。

赤澤とのキスを観月はそう例えた。
「なんで?」
それが肯定なのか否定なのかわからなくなって俺はきく。
観月は解けかけのレモンシャーベットをスプーンで崩しながら
「安っぽくてベタベタしてる。」
といった。
スプーンはもちろん先割れスプーンだ。
「キスが?」
それがシャーベットの事なのかキスのことなのか解らなくなってまた俺は聞いた。
観月はガラスの容器に口をつけて啜ってシャーベットを飲んだ。
バタークリーム。
そう呟く。
男同士のキスの感じなんて俺には想像も出来なかったし、できれば想像したくなかったので
“ふうん”と相槌を打ってから観月と同じようにもうレモンジュースになっているシャーベットを飲んだ。
甘ったるいレモンに“ファーストキスってレモン味だった?”と訊ねる。
意味もなくスプーンを前歯に挟んでいる観月は歯切れのよくない言葉で
「あつしは?」
と聞いてきた。
「覚えてない」
「僕も。」
そもそも唇なんだからレモンの味なんてするわけないじゃないか。
観月はそう言いたそうに自分の唇をスプーンの先端でつついた。
ファーストキスなんていつだったっけ。
俺がぼやくと観月に睨まれる「さいてー」なんていわれても困るよ。覚えてないんだもん。
「僕は、味なんて考えてる余裕なかったんだよ。」
スプーンをカップに押し込んで口の端に少しこびり付いた雫を唇で掬う。
赤澤としたのが初めてだったの?という下世話な質問をしようとしてやめる。
「あれ?何してるんだ。」
うわさをすればなんとやら。
ご本人の登場デス、とテレビ番組の再会SPの司会者みたいに思う。
カーテンが開くとそこには浅黒く日に焼けた少年が居るのだ。それで観月が感動するかどうかはわからないけれど。
「二人して、何くってたんだよ。」
食べ物には目敏いな。観月が毒づく。
「レモンシャーベット」
赤澤の方を見ないで観月は答えた。観月が差し出した空の容器を眺めて食いたかったなぁと呟いた。
「スクールのコーチがくれたんです。」
だから貴方の分は無い。
捨てといてください、と赤澤に容器を押し付けて(赤澤もそれを素直に受け取ってしまう)観月はこっそり俺に耳打ちした。
「けっこう、好きなんですバタークリーム。」
やれやれ、だ。

 

FIN

けっきょくラブラブなお二人ですv