[情熱よりキレイなもの]




それは君の夢を見る瞳。



だから本当は俺だけがそれを独占したいんだ。

珍しく黙ったまま赤澤が観月の横顔を見つめていた。
観月はシャープペンシルを走らせて日誌を書いている。
観月の字は見かけによらず大分汚くて赤澤にはなんて書いてあるのか一瞬ではわからない。
「ああ、そう今日はね」
不意に観月が喋りだした。赤澤の返答を待っている様子はなかったので彼は黙って頷いた。
「裕太がすごかったんですよスクールで。」

ああ、なんて嬉しそうに話すんだ。

まるで自分のことのように観月は裕太の事を話した。原稿用紙三枚分くらいベラベラと。
だから赤澤は「ああ」と「うん」を併用してそれを聞いていた、かなり不本意だったが。
本当は、抱き締めてキスをしてしまいたい。
そんな劣情にかられた赤澤は…しかしけれどもやっぱり…そんな事は出来ずに俯いて「そうなんだ」と呟いた。
口数が少なくなってしまっているな、と赤澤は自分を不自然に感じたのだが「裕太自慢」に熱中している観月は気付かない。
それはそれで、腹が立つ。
人間って我侭なんだな…と赤澤は妙に達観した気分でため息をついた。
「…どうか、しましたか?」
やっと赤澤の異変に気付いたのか観月はそう訊ねてきた。
観月はきれいだ。漠然と、赤澤はそう思った。
「…お前って、裕太好きだよなぁ〜と思って。」
実は嫌味で言ったのだが、観月が気付くわけがない。にっこりと笑われて「そうですね」なんて言われてしまう。
口惜しさと切なさと言うのは案外近い感情なのだと赤澤は知った。
「ああ、そうですか。」
随分と、子供みたいな声になってしまった。
赤澤がそう思った時には観月にもその声は届いていたし、赤澤が持った感想を同じ事を観月も思っているであることは観月の眼差しから解った。
靴の裏についてしまったガムを見るような目だ。
「なに、怒ってるんです?」
ああ観月のほうが怒ってるかもしれない、と赤澤は思った。俺は別に怒ってないぜと赤澤が首を振るが観月は信じてくれそうにもなかった。
「怒ってないんなら何ですその顔は。声は。」
そんな酷い顔をしていただろうか、を赤澤は観月の瞳に写った自分の顔を眺めた。いや、いつもどおりの良い男だと思う。
ただ幾分か、本当に幾分か不機嫌なのは仕方がない。

だって君が俺以外の話を嬉しそうにするから。

言える訳がない。赤澤はため息をついた。
嫉妬する男なんて、カッコ悪いではないか。
「……もしかして。」
観月の声に赤澤が一瞬ぎくりとした。
が。
「おなかでもすいたんですか?」
「違うっつーの。」
子供じゃないんだから。
がっくりと肩を落として赤澤は言う。思わず「なんでやねん」の要領で。
もうすこし聡くなってくれても一向に構わないのだが。しかし観月は人間の動向にはまったく興味がない。
黄色いボールの行方の方が気になる男なのだ。
「じゃあ、何?」
触れ腐れた表情(だと赤澤が感じただけだが。)で観月は彼を覗き込んだ。身長差からして当たり前の行為にも頬が赤くなる。
こんな顔で男なんだもんな。

だけれども君は誰よりも勇ましい。
だって情熱はいつも君を美しくする。

「…………なんでもねーよ。」
なんて言える訳がなく赤澤はそう言って笑った。
「変なあかざわ。」
誤魔化した赤澤には興味が失せたのか観月はふいと部誌に視線を戻して続きを書き始めた。
赤澤は軽くため息を漏らし、またその姿を見つめる事にしたのだった。

FIN